B-1Aランサーは、B-52ストラトフォートレスの後継機として、長距離かつ高速(マッハ2.2)の戦略爆撃機として試作されました。
後に可変翼の戦略爆撃機B-1Bランサーへとつながった戦略爆撃機です。
ここでは、B-1Aについて、主にNATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイトからの情報を元に説明します。
マッハ2.2の戦略爆撃機B-1Aランサーとは
B-1Aランサーは、1970年代にB-52ストラトフォートレスの後継機として、長距離かつ超音速(マッハ2.2)の戦略爆撃機として、試作機が4機開発されました。
B-1Aランサーの開発は1977年に中止されましたが、飛行試験は1981年まで続けられ、その後、B-1Aの改良型としてB-1Bランサーの開発がはじまりました。
下図は、B-1Aランサーの試作機の写真です。
- 機体は、翼と胴体が滑らかに結合されたブレンデッド・ウィング・ボディとなっています。
- 可変翼を採用しています。
- 機首先端にはノーズブームがあります。
図1 B-1Aランサー(その1)
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
下図は、B-1Aランサー初飛行の写真です。
図1 B-1Aランサー(その2)
出典:EDWARDS AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<HOME > NEWS > PHOTOS>からの画像
超音速だけではなかったB-1Aの開発要求
B-1Aランサーは、アフターバーナーを使用しての短時間の超音速飛行だけでなく、巡航(長距離飛行)できることが求められていました。
このため、B-1Aランサーは、可変式の空気取入口を採用しています。
- なお、B-1Bランサーの空気取入口は固定式で、マッハ1.2以上となっています。
F-15イーグルの空気取入口は可変式です。
マッハ2を狙うと必要になってくるようです。
B-1Aランサーは、超音速巡航以外の要求には次の様なものがあり、可変翼を採用することでこれらの要求を実現しています。
- 音速に近い速度(亜音速)での低空侵入能力
- 地上での脆弱性を軽減し、SAC(Strategic Air Command)の大規模な基地以外の飛行場でも運用できるように、短い距離での離着陸能力
B-1Aの主な特徴:可変翼
B-1Aランサーの可変翼は、下図の様にの外観上の特徴となっています。
- 例えば、下図左は低速時、下図右は高速時の可変翼の位置です。
- 可変翼により、超音速航行と短距離離着陸を両立させています。
図2 B-1Aランサー:可変翼の位置
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像(加工しています)
B-1Aの主な特徴:可変式の空気取入口
B-1Aランサーでは、超音速飛行の要求のため、可変式の空気取入口を採用しています。
可変空気取入口を持つ例としては、F-14トムキャットやF-15ストライクイーグルがあります。
マッハ2程度を狙ってくると必要になる機能ですが、当然部品数も増え複雑な構造になります。
図3 B-1Aランサー:可変式の空気取入口
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像(加工しています)
B-1Aの主な特徴:高揚力装置
B-1Bも同様ですが、B-1Aの可変翼は、前縁と後縁とが変形します。
下図左は、B-1Bランサー写真、下図右はB-1Aの図です。
- 一般的な補助翼よりも大きく断面の形状が変化します。
図4 B-1Aランサー:高揚力装置
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像(加工しています)
B-1Aの主な特徴:機首のフロントウィング
航空機の機首の両側にある小さな翼(フロントウィング)には、次の様な効果があります。
- 突風などによる機種の振動を空力的に減衰させる。
- 低高度高速侵入ミッションなどで機体の姿勢が乱れる場合の乗員の疲労を軽減する。
- 機体を安定させ、爆弾やミサイルの発射精度を向上させる。
B-1Aの主な特徴:その他
B-1Aのその他の特徴を以下に列挙します。
視認性(被発見性):
-
- B-1のレーダー・シグネチャー(レーダー波による反射映像)は、B-52の約5%であり、初期の航空機に比べて敵のレーダーからの視認性ははるかに低い。
搭載できる装備:
- B-1にはガトリング・ガンは搭載されていませんが、電子戦用の装備は充実しています。
- 内部の3つのウェポン・ベイには、さまざまな種類の核および通常兵器を搭載できます。
- 外部兵器を搭載するための設備を備えています。
操縦装置:
- B-1Aの通常の乗組員は、パイロット、副操縦士、攻撃システム・オペレーター、防御システム・オペレーターです。
- 従来の大型機とは異なり、パイロットには戦闘機用の操縦桿が装備されています。
- アクチュエーターを備えた操縦システムは、軽い操舵力と素早い反応特性を実現しています。
脱出装置:
- 試作1~3号機は、乗員の脱出が必要になった場合、乗員室全体をパラシュートで脱出・下降させることができました。
- 4号機では、機体コスト削減のため個別の射出座席となり、以降の機体ではこのタイプの脱出装置が採用されています。
写真で見るB-1Aランサー
B-1AをNATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイトの写真を使い説明します。
機体形状
下図は、B-1Aランサーを上方から見た写真です。
- 下図は、B-1Aランサーの主翼を広げた(前進させた)状態で、機首から胴体中央部、そして胴体後方へと滑らかな機体形状であることが分かります。
- 機首左右の小さな補助翼(フロントウィング)を確認できます。
- 機首先端は、ノーズドームのようです。
図5-1 B-1A:上方から
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
下図は、横から見た写真です。
- 胴体と主翼が滑らかにつながった形状であることが分かります。
- 垂直尾翼と水平尾翼との位置関係にも特徴があります。
- 機体後端が鋭い形状になっています。
図5-2 B-1A:横から
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
下図は、前方からみた写真です。
- 主翼の高揚力装置が分かります。
図5-3 B-1A:前方から
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
下図は、下方からみた写真です。
- 合計4基のエンジンが、2基づつ搭載されています。
- 機体下面がエンジン部分を除きフラットなことが分かります。
図5-4 B-1A:下方から
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
可変翼
B-1Aの外観上の大きな特徴が可変翼です。
下図は、主翼が前方にある写真です。
- 離着陸の際にこの状態になります。
- 高機動時などの場合にも主翼の後退角度は変化します。
図6-1 B-1A:可変翼前方
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
下図は、主翼が後方にある状態です。
- 高速時にこの状態になります。
- 機体が珍しく迷彩色で塗装されています。
図6-2 B-1A:可変翼後方
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
着陸
下図は、着陸時の写真です。
図7 B-1A:着陸
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
可変式の空気取入口
B-1Aランサーは、最高速度マッハ2.2を狙っていて、この速度を達成するために空気取入口が可変式となっています。
具体的にどのように動くのかは分からなかったのですが、F-15の例を見ると、単に空気取り入れ口の形状が変わるだけでなく、衝撃波対策を含めた複雑なシステムとなっているようです。
なお、後のB-1Bランサーでは、最高速度がマッハ1.2となり、固定式の空気取入口に変更されています。
図8 B-1A:可変式の空気取入口
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
空中給油
B-1Aは、空中給油も可能です。
下図は、KC-135ストラトタンカーから空中給油を受けるB-1Aです。
- 空中給油は、機首の両側にあるフロントウィングが効果を発揮するケースの1つです。
図9 B-1A:空中給油
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
試験中のB-1A
下図は、試験中のB-1AとF-111です。
- B-1Aの時代の可変翼機には、F-111があります。
図10 B-1AとF-111
出典:NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト<HOME > UPCOMING > PHOTOS>からの画像
B-1Aランサーの歴史
B-1Aの開発について説明します。
高性能と高コストとのバランスをとるのは、昔から難しい問題のようです。
1970年代:B-1A開発と中止
B-1Aは、B-52の後継機として1970年代に開発されました。
長距離かつ高速(マッハ2.2)の戦略爆撃機として、1970年代半ばに4機の試作機が開発・試験されましたが、生産に入る前の1977年に計画は中止されました。
なお、飛行試験は1981年まで続けられています。
1980年代:B-1Bランサーの開発
1981年、B-1Aの改良型として、B-1Bランサーの開発がはじまりました。
B-1Bランサーでは、よりシンプルかつ低コストで生産できるように、次の変更がなされています。
- 積載量を33,565kg増やすための構造変更
- レーダーの改良
- レーダー断面積の桁違いの縮小
なお、レーダー断面積(RCS:radar cross section)低減の一環として、空気取入口(インレット)の形状が大幅に変更され、最高速度はマッハ1.2に低下しています。
B-1Aランサーの諸元
B-1Aの主要諸元は、Strategic Air & Space MuseumのWebサイトの情報から下表に示します。
全長 | 45.8 m |
---|---|
全高 | 10.3 m |
全幅 | 主翼前方時:41.7 m
主翼後退時:23.8 m |
エンジン |
|
重量 | 86,180 kg |
最大離陸重量 | 216,300 kg |
最大搭載重量 | 176,400 kg(ペイロード) |
速度 | 最高速度:2,236 km/h (マッハ1.87)
巡航速度:1,041 km/h (マッハ0.87) |
高度 | 18,200 m |
航続距離 | 9,816 km |
燃料搭載容量 | – kg |
武装 | – |
乗員 | パイロット、副操縦士、攻撃システム・オペレーター、防御システム・オペレーター |
参考リンク
この記事は、主に以下のWebサイトの情報をまとめています。
英文サイトを和訳していることと、私の理解した内容なので正確な情報は、以下の情報をご参照ください。
- NATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイト
- NASAのWebサイトのNASA HISTORY
主要諸元は、Strategic Air & Space MuseumのWebサイト
まとめ
B-1Aランサーは、B-52ストラトフォートレスの後継機として、長距離かつ高速(マッハ2.2)の戦略爆撃機として開発されました。
4機試作されましたが量産にはならず、その後、可変翼の戦略爆撃機B-1Bランサーへとつながった戦略爆撃機です。
ここでは、B-1Aについて、主にNATIONAL MUSEUM(米国空軍)のWebサイトからの情報を元に以下の項目で説明しました。
- マッハ2.2の戦略爆撃機B-1Aランサーとは
- 超音速だけではなかったB-1Aの開発要求
- B-1Aの主な特徴:可変翼
- B-1Aの主な特徴:可変式の空気取入口
- B-1Aの主な特徴:高揚力装置
- B-1Aの主な特徴:機首のフロントウィング
- B-1Aの主な特徴:その他
- 写真で見るB-1Aランサー
- 機体形状
- 可変翼
- 着陸
- 可変式の空気取入口
- 空中給油
- 試験中のB-1A
- B-1Aランサーの歴史
- 1970年代:B-1A開発と中止
- 1980年代:B-1Bランサーの開発
- B-1Aランサーの諸元
- 参考リンク