3Dプリント製フィンレットでMC-130JやC-130Jシリーズの空力性能向上

フィンレットによる空力改善MC-130JコマンドーII 航空機の技術
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイトからの画像(加工しています)

ボルテックス・ジェネレーターとは、旅客機の主翼の上にある突起状のモノです。日本語では、渦発生装置といわれています。

ボルテックス・ジェネレーターを主翼に取り付けることで、空力的な性能向上や燃費改善の効果が得られるため、旅客機や輸送機などでも実際に使われている技術です。

ここでは、米国空軍のMC-130JコマンドーIIに、3Dプリント製ボルテックス・ジェネレーター(ここではフィンレットといいます)を設置することで得られる、燃費と運用能力改善について説明します。

  • MC-130Jは、C-130Jスーパー・ハーキュリーズの派生機です。
  • 米国空軍では、ボルテックス・ジェネレーターではなく、マイクロベーン(Microvane)ともいわれています。
スポンサーリンク

ボルテックス・ジェネレーターとは

ボルテックス・ジェネレーターとは、渦発生器のことです。

下図は、旅客機の主翼の写真です。

  • 下図の青枠で囲んでいる部分の主翼上に並ぶ小さな突起物が、ボルテックス・ジェネレーターです。
  • ボルテックス・ジェネレーターの設置位置は、設置目的(期待する効果)などにより様々です。
ボルテックス・ジェネレーターの例

ボルテックス・ジェネレーターの例

図1 ボルテックス・ジェネレーターの例

出典:フリー素材ドットコムからの画像(加工しています)

ボルテックス・ジェネレーターの効果

ボルテックス・ジェネレーターは、航空機の性能や燃料消費量削減などの効果を得ることができます。

図1を例にボルテックス・ジェネレーターの効果を説明します。

  • 図1の右側が進行方向です。

主翼表面を空気が流れていきますが、高速になったり上昇したりすると主翼後方(図1右側)部分の空気層が主翼表面から離れていき、空気抵抗(抗力)が大きくなり、速度が低下したり速度を維持するためにエンジン推力を上げることで燃料消費量が増えたりします。

ボルテックス・ジェネレーターを設置すると、次のような効果が得られます。

  • ボルテックス・ジェネレーターにより、主翼表面に小さな渦が発生します。
  • この小さな渦の層が、主翼表面を後方に流れることで、高速になったり上昇したりすると主翼後方(図1右側)部分の空気層が主翼表面から離れていくのを遅らせる効果があります。
はかせ
はかせ

ボルテックス・ジェネレーターは、主翼表面に小さな渦を発生することで主翼全体の空気抵抗(抗力)を小さくする効果を得られるというイメージです。

MC-130JコマンドーIIのフィンレット

ここでは、MC-130JコマンドーIIの燃費改善と運用能力改善を狙いとした、ボルテックス・ジェネレーターの試験について説明します。

なお、MC-130JコマンドーIIでは、ボルテックス・ジェネレーターではなく、フィンレット(Finlet)といいます。

MC-130JコマンドーII

MC-130JコマンドーIIは、C-130Jスーパー・ハーキュリーズをベースとした特殊作戦向けのスペシャルな戦術輸送機です。

下図は、MC-130JコマンドーIIの写真です。

  • 特殊作戦の支援やヘリコプターなどへの空中給油を行います。
MC-130JコマンドーII

241119-F-WG663-9028 Getting low A U.S. Air Force MC-130J Commando II assigned to the 352nd Special Operations Wing performs low-flying training maneuvers during exercise Adamant Serpent 25 in Sweden, Nov. 19, 2024. The exercise is a U.S. European Command-approved exercise conducted annually by U.S. Special Operations Command Europe to demonstrate the ability of NATO allies to deploy and operate within the European theater while demonstrating military interoperability. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Cody J. A. Mott)

図2 MC-130JコマンドーII

出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像

MC-130JコマンドーIIの詳細は、以下の記事をご参照ください。

写真で見るMC-130JコマンドーIIのフィンレット

MC-130JコマンドーIIのフィンレットは、空力改善による燃費向上と運よ能力の改善を狙い、空力を改善させるため後部ドアと尾翼両側に設置されています。

下図は、MC-130JコマンドーIIの貨物ドアに取り付けられたフィンレットの写真です。

  • 貨物ドアに左右に各4個、合計8個のフィンレットがハの字型に取り付けられています。
  • フィンレットは、Vortex Control Technologies社が開発しました。
MC-130JコマンドーIIのフィンレット:後部ドア(その1)

250716-F-AL359-1046 C-130 Finlets An MC-130J taxis out for its first flight with new aerodynamic Finlets attached to the aircraft at Eglin Air Force Base, Florida, July 16, 2025. (U.S. Air Force photo by Michelle Gigante)

図3-1 MC-130JコマンドーIIのフィンレット:後部ドア(その1)

出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像(加工しています。)

下図は、貨物ドアを開いた写真です。

  • 貨物ドアの上側は上方に、下側は下方に開いています。
MC-130JコマンドーIIのフィンレット:後部ドア(その2)

250716-F-AL359-1042 C-130 Finlets A MC-130J waits for its first flight with new aerodynamic Finlets attached to the aircraft at Eglin Air Force Base, Florida, July 16, 2025. (U.S. Air Force photo by Michelle Gigante)

図3-1 MC-130JコマンドーIIのフィンレット:後部ドア(その2)

出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像(加工しています。)

下図は、MC-130JコマンドーIIの尾翼に設置されたフィンレットの写真です。

  • 両側の尾翼根元の胴体にフィンレットが取り付けられています。
MC-130JコマンドーIIのフィンレット:尾翼

250709-F-OC707-3001 Finlet install A 3D-printed Finlet sits on each side of a MC-130J’s tailfin waiting to be tested July 9 at Eglin Air Force Base, Florida. The 417th Flight Test Squadron’s air crew and engineers will analyze the Finlets’ flight and air handling qualities as well as the aircraft’s airdrop compatibility with the new additions. (U.S. Air Force photo by Samuel King Jr.)

図3-2 MC-130JコマンドーIIのフィンレット:尾翼

出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像(加工しています。)

フィンレットによる燃費改善効果

2025年7月、MC-130JコマンドーIIによるフィンレットによる、飛行特性と操縦性や適合性の試験が実施されています。

MC-130JコマンドーIIにフィンレットを設置することにより、機体表面の気流を滑らかにして空気抵抗(抗力)を低減し、燃料効率を向上させる効果があります。

試算ですが、フィンレットにより、空気抵抗(抗力)を約6~8%削減する効果があります。

今回のフィンレットの試験は、MC-130JコマンドーIIで行いましたが、目標は全てのC-130Jスーパー・ハーキュリーズを対象にしています。

ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善以外の効果

MC-130JコマンドーIIにフィンレットを設置することにより、空気抵抗(抗力)が減少することは、戦術輸送機としての飛行性能にもプラスの効果が得られます。

参考リンク

この記事の参考リンクを以下に示します。

2025年7月の飛行試験は、MC-130JコマンドーIIを使い行われていますが、C-30Jスーパー・ハーキュリーズに適用される予定です。

  • Sleeker skies: MC-130J tests new aerodynamic enhancements
スポンサーリンク

まとめ

ボルテックス・ジェネレーターとは、旅客機の主翼上にある突起状のモノで、空力的な性能向上や燃費改善効果が得られる技術です。

ここでは、米国空軍のMC-130JコマンドーIIに、3Dプリント製フィンレット(ボルテックス・ジェネレーター)を設置することで得られる燃費改善と運用能力改善について、以下の項目で説明しました。

  • ボルテックス・ジェネレーターとは
    • ボルテックス・ジェネレーターの効果
  • MC-130JコマンドーIIのフィンレット
    • MC-130JコマンドーII
  • 写真で見るMC-130JコマンドーIIのフィンレット
    • フィンレットによる燃費改善効果
    • ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善以外の効果
  • 参考リンク
タイトルとURLをコピーしました