AV-8BハリアーIIは、米国海兵隊の近接航空支援を担う垂直離着陸(VTOL)機です。
2024年現在、海兵隊ではAV-8BハリアーIIからF-35BライトニングIIの配備が進められています。
AV-8BハリアーIIは垂直離陸が可能でしたが、大量の燃料を必要とするため垂直離陸をする場面は少ないようです。このため、後継機となるF-35BライトニングIIでは垂直離陸は要求されず、短距離陸/垂直着陸(STOVL)機となっています。
ここでは、間もなく現役引退となるAV-8BハリアーIIについて、主に米国海軍と海兵隊のWebサイトの情報から写真を使って説明します。
垂直離着可能な艦載機AV-8BハリアーIIとは
AV-8BハリアーIIは、米国海兵隊で運用されている垂直離着陸(VTOL)機です。
海兵隊は、カタパルトをもたない強襲揚陸艦での運用となることから、垂直離着陸(VTOL)が求められており、2023年現在AV-8BハリアーIIからF-35BライトニングIIにへの移行が進められています。
空母のカタパルトについては、以下の記事をご参照ください。
下図は、強襲揚陸艦USS Bonhomme Richard(LHD 6)に着艦するAV-8BハリアーIIの写真です。
- 独特の機体形状です。
- 胴体中央部の前後と主翼中央付近に車輪が配置されています。
図1 AV-8BハリアーII(Harrier II)
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
主な用途(ミッション)を以下に列挙します。
- 武装偵察(威力偵察)と航空阻止を含む近接航空支援
- 中距離対空戦(迎撃、攻撃)
- 戦闘空域の哨戒、護衛、及び、敵地対空部隊の攻撃
これらの任務のため、以下の機能を備えています。
- 夜間飛行や計器飛行条件下での運用や武器運搬
- 空中給油による長時間の作戦展開
- 空母(強襲揚陸艦)での運用
- 前進基地、前線の飛行場や戦術的上陸地点への展開
AV-8BハリアーIIの主な特徴
AV-8BハリアーIIは、垂直離陸と垂直着陸が可能なVTOL機です。
米国海兵隊において、空母カタパルトをもたない強襲揚陸艦で運用されています。
AV-8BハリアーIIの標準(初期)型は、DA(Day Attack)型とも呼ばれ、標準的な武装は以下の通りです。
- 空対地用武装: Mk-82 500ポンド爆弾6発
- 空対空用武装: AIM-9L/Mサイドワインダー・ミサイル4発、7基のステーションに最大9,000ポンド搭載可能
他に、以下の武装を搭載可能です。
- Mk-83 1,000ポンドGP爆弾
- GBU-12 500ポンドLGB、GBU-16 1,000LGB
- CBU-99/100クラスター爆弾ユニット
- 2.75インチおよび5インチロケット弾
AV-8BハリアーIIは、初期型から夜間攻撃用に改修されたNA(Night Attack)型、NA型にレーダーをアップグレードしたR(Rader)型となっています。
AV-8BハリアーII夜間攻撃型
AV-8BハリアーII夜間攻撃型は、エンジン推力向上と共に、夜間攻撃のための改修が行われています。
- エンジンは、ロールスロイス製ペガサスF402-RR-406ターボファンエンジンの推力9,198(kgf)から、推力10,069(kgf)のF402-RR-408Aターボファンエンジンに換装されています。
以下の機能を追加することで、低高度や高速での昼夜を問わない攻撃能力を得ることができます。
- 暗視ゴーグル対応のコックピット・コントロールとディスプレイ
- 広視野に対応したHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)
- ナビゲーション前方監視赤外線(NAVFLIR:Navigation Forward Looking Infrared)システム、デジタル・マップ・ユニット(DMU:Digital Map Unit)
- レーザー・スポット・トラッカー付きアングル・レート・ボンビング・システム(ARBS:Angle Rate Bombing System)
AV-8BハリアーIIレーダー強化型
AV-8BハリアーIIレーダー型は、夜間攻撃能力を保持しながら、以下の機能を追加することで、航空機を追跡するレーダー能力が強化されています。
- AN/APG-65レーダーシステムのを統合
- 空対地及び空対空戦闘における目標追跡能力の拡張
写真で見るAV-8BハリアーII
AV-8BハリアーIIをUS NAVY(米国海軍)のWebサイトの写真を使い説明します。
機体形状
下図は、強襲揚陸艦USS Makin Island’s(LHD 8)から発艦するAV-8BハリアーIIの写真です。
- 胴体前側のノズル位置から垂直離陸ではなく、短距離離陸による発艦です。
図2-1 AV-8BハリアーII:上方から
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
下図は、機体正面からの写真です。
- 吸気口が左右に見えますが、エンジンは1基です。
- 下方に下がった主翼形状が分かります。
- 車輪は、胴体前部が1輪、後部が2輪(ダブルタイヤ)となっています。
- 主翼中央付近の車輪は、主翼内には格納されず、離陸すると後方に移動し主翼と一体化します。
図2-2 AV-8BハリアーII:正面から
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
下図は、機体側方からの写真です。
- 発艦時なので前方車輪が一番曲がった(全高が低くなった)状態ですが、機種が上がった姿勢であることが分かります。
- 着艦時には、前方車輪が下図よりもさらに下に下がっています。
図2-3 AV-8BハリアーII:横から
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
下図は、機体下方からの写真です。
- 胴体前部のノズルが下方に向いています。
- 胴体中央部のフィンは、LIDS(Lift Improvement Devise Strake)で、下方に向けられたノズルからのジェットが甲板にぶつかり戻ってきた分を胴体下面で受け止め、垂直方向の揚力を補う働きがあります。
図2-4 AV-8BハリアーII:下から
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
下図は、機体下方からの写真です。
- 尾翼も主翼同様下方に下がっています。
- 離陸時は、主翼のフラップも下げています。
図2-5 AV-8BハリアーII:後方から
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
発艦
下図は、強襲揚陸艦USS Makin Island(LHD 8)から発艦する写真です。
- 胴体前部のノズルが下方ではなく後方に向けていますので、短距離離陸です。
- AV-8BハリアーIIは垂直離陸可能ですが、実際の運用では燃料や武器等の搭載量が制限されますので、短距離離陸の場面が多いようです。
図3 AV-8BハリアーII:発艦
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
着艦
下図は、強襲揚陸艦USS Wasp(LHD 1)に着艦する写真です。
- 機体の上昇・下降は胴体の4つのノズル、姿勢制御は、主翼端部のノズル、機首下部と尾部のノズルからのジェットで制御します。(各ノズルでバランスを取るイメージです。)
図4 AV-8BハリアーII:着艦
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
空中給油
下図は、F/A-18スーパーホーネットから空中給油を受けているスペイン空軍のAV-8BハリアーII+です。
図5 AV-8BハリアーII:空中給油(その1)
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
下図は、KC-130Jスーパー・ハーキュリーズから空中給油を受けるAV-8BハリアーIIです。
- 空中給油には、ドローグを使います。
図5 AV-8BハリアーII:空中給油(その2)
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から
オスプレイとのサイズ比較
下図は、CV-22オスプレイとAV-8BハリアーIIの大きさを比較した写真です。
- AV-8BハリアーIIは、F-35BライトニングIIやF-16ファイティング・ファルコンとほぼ同じ大きさです。
図6 CV-22オスプレイとAV-8BハリアーIIの大きさ比較
引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)
複座の訓練機TAV-8B
下図は、AV-8BハリアーIIの訓練機TAV-8Bの写真です。
- 2024年8月、イタリア海軍の軽空母カブール(Cavour)が横須賀に寄港しました。F-35BライトニングII、AV-8BハリアーIIと複座のTAV-8Bも見られたようです。
図7 AV-8BハリアーIIの訓練機TAV-8B
引用先:MARINES(海兵隊)のWebサイト<Home > Photos>から
AV-8BハリアーIIの歴史
AV-8BハリアーIIは、AV-8AハリアーをベースにYAV-8Bプロトタイプが作られ、NASAでの本格的な風洞試験や飛行・構造試験を行った後、AV-8BハリアーIIとして開発されました。
1981年11月:AV-8BハリアーII初飛行
1985年8月:初期運用能力(IOC)獲得
- IOC:Initial Operating Capability
1987年1月:運用開始
1990年:夜間攻撃(NA)型への改修
- F402-RR-408Aエンジンに換装:F402-RR-406の推力9,198(kgf)から、推力10,069(kgf)に向上
- 夜間戦闘システムの拡張:NAVFLIR、DMU、暗視ゴーグル機能、広視野HUDなど
1993年:レーダー型実戦配備
- 夜間戦闘能力とAN/APG-65レーダーを搭載
1994年:再製造プロセス(REMAN)を開始
- REMAN:remanufacturing process to convert DA AV-8Bs to the Radar configuration
- 1996年より納入開始
さらに、以下の機能改修が進められました。
- 自動ターゲットハンドオフシステム(ATHS):
- ATHS:Automatic Target Handoff System)
- パイロットと地上部隊間のターゲット/ミッションデータのダイレクト交換
- 全地球測位システム(GPS)機能:
- GPSを統合することで、航法と武器の誘導精度向上
AV-8BハリアーIIの諸元
Naval History and Heritage CommandのWebサイトのAV-8BハリアーIIの情報を参考にしています。
全長 | 14.12 m |
---|---|
全高 | 3.55 m |
全幅 | 9.25 m |
エンジン |
|
最大離陸重量 | 14,060 kg(短距離離陸)
8,570 kg(垂直離陸) |
最大搭載重量 | – kg |
速度 | 1,013 km/h (マッハ0.82) |
航続距離 | 3,148 km(内部燃料) |
燃料搭載容量 | 3,519 kg(内部搭載) |
武装(例) |
|
乗員 | パイロット |
参考リンク
この記事は、主に以下のWebサイトの情報をまとめています。
英文サイトを和訳していることと、私の理解した内容なので正確な情報は、以下の情報をご参照ください。
- Naval Air Systems CommandのAV-8BハリアーIIのページ
- Naval History and Heritage CommandのAV-8BハリアーIIのページ
まとめ
AV-8BハリアーIIは、米国海兵隊の近接航空支援を担う垂直離着陸(VTOL)機です。
2024年現在、海兵隊ではAV-8BハリアーIIからF-35BライトニングIIの配備が進められています。
間もなく現役引退となるAV-8BハリアーIIについて、主に米国海軍と海兵隊のWebサイトの情報から写真を使い、以下の項目で説明しました。
- 垂直離離着可能な艦載機AV-8BハリアーIIとは
- AV-8BハリアーIIの主な特徴
- AV-8BハリアーII夜間攻撃型
- AV-8BハリアーIIレーダー強化型
- 写真で見るAV-8BハリアーII
- 機体形状
- 発艦
- 着艦
- 空中給油
- オスプレイとのサイズ比較
- 複座の訓練機TAV-8B
- AV-8BハリアーIIの歴史
- 1981年11月:AV-8BハリアーII初飛行
- 1985年8月:初期運用能力(IOC)獲得
- 1987年1月:運用開始
- 1990年:夜間攻撃(NA)型への改修
- 1993年:レーダー型実戦配備
- 1994年:再製造プロセス(REMAN)を開始
- AV-8BハリアーIIの諸元
- 参考リンク