冬の離着陸をテーマに米国空軍のWebサイトを見ていたちころ、最強のステルス戦闘機F-22ラプターには、いわゆるアンチロック・ブレーキ・システムが装備されていることを知りました。
F-22ラプターはSTOL(短距離離着陸)性能に優れた機体ですが、雪や氷などで滑走路が滑りやすい状態でも着陸するためにはアンチロック・ブレーキ・システムが有効なことは確かです。
ここでは、F-22ラプターのブレーキ・システムの性能評価試験について、米国空軍(USAF)のWebサイトの情報と写真を使い説明します。
F-22ラプターとアンチロック・ブレーキ
F-22ラプターは、最強のステルス戦闘機です。
F-22ラプターはF-117ナイトホークやF-35AライトニングIIと同じ様に、レーダーや赤外線探知装置などからの隠密性が極めて高いステルス戦闘機であり、次の特徴を持っています。
- 高いステルス性
- アフターバーナーなしでのスーパークルーズ(超音速巡航)
- STOL(短距離離着陸)が可能

160318-F-PV972-285 Tampa Bay AirFest 2016 An F-22 Raptor from Tyndall Air Force Base, Fla., prepares to land at MacDill AFB, Fla., March 18, 2016, for AirFest 2016. The F-22 was set up as a static display for visitors to get a close-up look at the world’s best air dominance fighter. (U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Cody R. Miller)
図1 F-22ラプター
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
最強のステルス戦闘機であるF-22ラプターの詳細は、以下の記事をご参照ください。
アンチロック・ブレーキとは
アンチロック・ブレーキとは、路面が雨や氷雪などで滑りやすい状態でも、タイヤをロックさせることなくブレーキ力(制動力)を発揮することができるシステムです。

アンチロックではなく、アンチスキッドともいいます。
アンチロックは、車輪をロックさせない。アンチスキッドなら横滑り防止の意味合いです。
車を例にアンチロック・ブレーキについて説明します。
走行している車は、ブレーキを踏むタイヤを止めて、タイヤと路面との摩擦力により速度を落とし停止します。
走行している車が、滑る路面上で急ブレーキを踏むと、車輪がロックしたまま滑ってしまいます。
- 車輪がロックすると、タイヤと路面との摩擦力による減速ができなくなるだけでなく、車体が曲がったり回転したりしてどの方向に進むかも分からない危険な状態となります。
アンチロック・ブレーキ・システムは、滑る路面上で急ブレークを踏んでも、コンピュータがブレーキの力を自動的に制御して、車輪をロックさせずに速度を落とすことができるシステムです。

ずいぶん昔のことですが、スキーに行くのでアンチロック・ブレーキのあるホンダのインテグラに乗っていました。
砂利道などで、急ブレーキを踏んで、アンチロック・ブレーキが作動していることを示す、ブレーキペダルへのコン・コンといったキックバックを確認したこともありました。
F-22ラプターのブレーキ・システム
航空機は、自機のジェット・エンジンの推力により機体速度を上げ離陸します。
- 自動車は、車輪と路面との摩擦力により前進します。
着陸する場合は、エンジン推力を落とすだけでなく、補助翼なども使い空気抵抗により減速しながら、車輪と滑走路面との摩擦により機体を停止させます。
滑走路面が雨に濡れている場合には、車輪と滑走路面との摩擦力は小さくなり滑りやすくなります。滑走路面に雪や氷があるとさらに滑りやすくなります。
滑りやすい滑走路面は、機体の制動距離が長くなるくだけでなく、左右に振られたりして着陸時の機体の安定性にも悪影響を与えます。
F-22ラプターのブレーキ・システムは、滑走路面の状態に応じた機体(姿勢)の安定性と最適な制動力を得ることができるシステムです。
なお、F-22ラプターのブレーキ・システムは、自動車のアンチロック・ブレーキと同等の機能に加え、次のような機能も備えています。
- ナビゲーションシステムを通じて減速も考慮することで、航空機が出会う様々な路面において、安全かつ確実に停止する機能
写真で見るF-22ラプターの寒冷地でのブレーキ試験
F-22ラプターのブレーキ試験を行うには、氷点下の滑走路が必要でした。
耐候性試験であれば、米国空軍にはMcKinley Climatic Labという大規模試験施設があります。しかし、大規模な試験施設でも、F-22ラプターの実機を使ったブレーキ試験はさすがにできません。
そこで、アラスカのElmendorf Air Force Baseで、F-22ラプターのブレーキ試験が行われました。
F-22ラプターのブレーキ試験
F-22ラプターのブレーキ試験を行うには、氷点下の滑走路が必要でした。
氷雪だけでなく、雪嵐(snow storm)や霧氷(ice fog)での滑りやすい路面でも着陸できることが求められました。これは、F-22ラプターだけでなく、空軍機全てにおいても必要な要求です。
ブレーキ試験では、機体を停止させるために必要な滑走路面の硬さなどを調べるため、マイナス37度~13度の温度範囲での次のような試験が段階的に行われました。
- 基本的な地上での操縦試験
- 高速ブレーキング試験
- 滑走路条件による離着陸試験
ブレーキ試験の期間は3週間でしたが、最初の5日間で必須の試験項目を終え、その後は微調整とデータ収集を行いました。
F-22ラプターのブレーキ・システムは、優れた安定性を示すと共に、寒冷地での操縦と整備の技術と手順を開発し、最新のデータに更新するために必要なデータを収集できました。
F-22ラプターのブレーキ試験
F-22ラプターのブレーキ試験の写真を紹介します。
下図は、アイキャッチにも使っている写真です。
- 厳しい冬の寒さを感じる1枚です。

071107-F-3366A-205 F-22 endures 3-week, cold-weather test at Eielson An F-22 Raptor performs 60-knot testing on low runway conditions Nov. 8 at Eielson Air Force Base, Alaska. The F-22 underwent cold-weather testing on its braking system, with emphasis on its ability to maneuver, stop and go on slippery surfaces. The aircraft was tested by the 411th Flight Test Squadron during a three-week deployment on incrementally low-level runway condition reading surfaces, with temperatures ranging between 37 to -13 degrees. The F-22 is from Edwards AFB, Calif. (U.S. Air Force photo/Kevin Roberston)
図2 F-22ラプターのブレーキ試験(その1)
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図の写真からは、路面が凍っている様子が分かります。
- 試験する方も仕事とはいえ大変です。

071107-F-3366A-204 F-22 endures 3-week, cold-weather test at Eielson An F-22 Raptor performs manuevering, stopping and going on low runway conditions Nov. 7 at Eielson Air Force Base, Alaska. The F-22 underwent cold-weather testing on its braking system, with emphasis on its ability to maneuver, stop and go on slippery surfaces. The aircraft was tested by the 411th Flight Test Squadron during a three-week deployment on incrementally low-level runway condition reading surfaces, with temperatures ranging between 37 to -13 degrees. The F-22 is from Edwards AFB, Calif. (U.S. Air Force photo/Kevin Roberston)
図2 F-22ラプターのブレーキ試験(その2)
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、太陽の光が差している写真です。

071105-F-3366A-203 F-22 endures 3-week, cold-weather test at Eielson An F-22 Raptor comes to a stop Nov. 5 on the runway at Eielson Air Force Base, Alaska. The F-22 underwent cold-weather testing on its braking system, with emphasis on its ability to maneuver, stop and go on slippery surfaces. The aircraft was tested by the 411th Flight Test Squadron during a three-week deployment on incrementally low-level runway condition reading surfaces, with temperatures ranging between 37 to -13 degrees. The F-22 is from Edwards AFB, Calif. (U.S. Air Force photo/Kevin Roberston)
図2 F-22ラプターのブレーキ試験(その3)
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
参考リンク
この記事は、主に以下のWebサイトの情報をまとめています。
英文サイトを和訳していることと、私の理解した内容なので正確な情報は、以下の情報をご参照ください。
- USAF(米国空軍)の記事「F-22 endures 3-week, cold-weather test at Eielson」
まとめ
最強のステルス戦闘機F-22ラプターには、いわゆるアンチロック・ブレーキ・システムが装備されていることを知りました。
F-22ラプターはSTOL(短距離離着陸)性能に優れた機体ですが、雪や氷などで滑りやすい滑走路でも着陸できることが求められました。
ここでは、F-22ラプターのブレーキ・システムの性能評価試験について、米国空軍(USAF)のWebサイトの情報と写真を使い、以下の項目で説明しました。
- F-22ラプターとアンチロック・ブレーキ
- アンチロック・ブレーキとは
- F-22のブレーキ・システム
- 写真で見るF-22ラプターの寒冷地でのブレーキ試験
- ブレーキ・システムの試験内容
- F-22ラプターのブレーキ試験
- 参考リンク