2025年1月、最新のステルス機F-35AライトニングIIをニコイチした機体が試験飛行に成功しました。
- ニコイチとは組み換え整備のことで、レストアの1つのやり方ではありますが、通常はやらない整備方法です。
成功したF-35AライトニングIIのニコイチは、次の2つの機体の使える部分を組み合わせて、1機のF-35AライトニングIIにしたものです。
- ノーズギア(機首側の主輪)を損傷した機体
- エンジン火災により損傷した機体
F-35AライトニングIIは、音速を超える機体ですし、ステルス性にも優れています。機体構造やアビオニクスなどの様々なシステムを含めニコイチするのは、米国空軍(USAF)や製造メーカーにとってもはじめての経験だったようです。
ここでは、米国空軍(USAF)のWebサイトの情報から、写真を含めF-35AライトニングIIのニコイチについて説明します。
なお、このF-35AライトニングIIのニコイチ・プロジェクトは、フランケン・バード(Franken-bird)と呼ばれていますが、ここではニコイチということにします。
ニコイチとは
ニコイチとは、組み換え整備のことです。
レストアの1つのやり方ではありますが、通常はやらない整備方法です。
ニコイチの例
私の知るニコイチの実例は、戦車のニコイチです。いつ頃の話かは分かりませんが、主力戦車のメルカバだったと思います。
ここでの戦車のニコイチは、
(砲塔部が壊れた戦車)+(車体部が壊れた戦車)=(1台の戦車)
にするものです。
戦車は、砲塔と車体とを分離できる構造なので、ニコイチできることは分かります。
ニコイチをしない理由
理論的には、すべて分解して組み直せばニコイチできるといえます。
しかし、実際にニコイチするのは、前述のメルカバの例以外に私は知りませんし、一般的にニコイチは避けるものだと思っています。
戦車を例に、ニコイチを避ける理由を列挙します。
ここでは、同時に作られた同じ仕様の戦車だったと仮定します。
- 同じ仕様であっても、2台の戦車の砲塔と車体とは、リアルな現物としては完全に同じものではありません。
- 製造時には、ほぼ同等の仕様だ有ったとしても、その後の運用による砲塔と車体へのダメージは2両の戦車で異なります。
- 損傷した場合であれば、砲塔や車体へダメージは、2両の戦車でさらに大きく異なります。
ニコイチ前の2両の戦車には、実際には差異がありますので、
- 戦車Aから使える砲塔部分を分離する。
- 戦車Bから使える車体部分を分離する。
- 戦車Aの砲塔と戦車Bの車体を結合する。
と考えても、実際には様々な困難が待ち受けています。
部品レベルでのニコイチに問題がないとしても、ニコイチする整備員のスキルやニコイチ後に新規製造と同様の性能を発揮できるかは未知数です。
F-35AライトニングIIのニコイチ
F-35AライトニングIIをニコイチした理由などを推測を含め説明します。

220524-F-GK113-9304 Soaring above the clouds An F-35A Lightning II assigned to the 48th Fighter Wing at RAF Lakenheath, United Kingdom, flies alongside a KC-135 Stratotanker assigned to the 100th Air Refueling Wing at RAF Mildenhall, U.K., during a refueling mission over the North Sea, May 24, 2022. The F-35A is a fifth-generation fighter that provides the joint warfighter unprecedented global precision attack capability against current and emerging threats, while complementing the Air Force’s air superiority fleet. (U.S. Air Force photo by Senior Airman Kevin Long)
図1 F-35AライトニングII
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
F-35AライトニングIIの詳細は、以下の記事をご参照ください。
ニコイチを決めた理由:コスト
F-35AライトニングIIは、最新のステルス戦闘機です。
一般的にニコイチは避けるものですが、技術的にも、機体の構造、アビオニクス、ステルス性能の確保など課題がたくさんありそうです。
理論的には、すべて分解して組み直せばニコイチできるとはいえ、超音速で飛行可能な最新ステルス機を分解することは、技術的なハードルも高そうです。
それでも、最新のステルス機F-35AライトニングIIをニコイチにすることしたのか、一番の理由はコストだったのではないかと推測しています。
ニコイチを決めた理由:機体があった
F-35AライトニングIIは、最新のステルス機であり非常に高額な機体です。
- 戦闘機界のベストセラーは、F-16ファイティング・ファルコンですが、F-35AライトニングIIは、ステルス機のベストセラーになりそうです。
F-16ファイティング・ファルコンの詳細は、以下の記事をご参照ください。
ニコイチに成功したF-35AライトニングIIは、次の2機が使われています。
- 機体A:ノーズギア(機首のランディングギア)のない機体(2020年)
- 機体B:エンジン火災で損傷した機体の機首(2014年)
ニコイチを決めた理由:これまでの修理実績
F-35AライトニングIIのニコイチは、米国空軍(USAF)と製造メーカーにとってもはじめての経験でした。
しかし、ニコイチまではいきませんが、次のような修理実績があり、技術の蓄積がありました。
F-35の機体の部分的な修復
回収された機体の一部をABDR訓練機として使用
- ABDR:Aircraft Battle Damage Repair、航空機の戦闘損傷の修理
回収された機体の一部の整備訓練での利用
回収された機体部分を使用したF-35の整備員(maintainer)訓練に使う
F-22ラプターの大規模レストア
F-22ラプターの大規模なレストアをプロジェクトとして実施していました。
F-22ラプターの詳細は、以下の記事をご参照ください。
ニコイチを決めた理由:期待できる成果
F-35AライトニングIIのニコイチを行うことで、次のような成果が得られると考えました。
- 標準化されたF-35AライトニングIIの日常的な操作手順の確立に役立つ
- 現場レベルでの多数のはじめての作業を行った結果を、JPO(The F-35 Lightning II Joint Program Office)にフォードバックできた。F-35の全整備員に対し、新しい部品の取り付けや点検を行う際に使用するジョイント・テクニカル・データ(Joint Technical Data)の更新に利用
- 将来的に、前方地域での航空機の戦闘ダメージの修理に応用できる可能性

F-35ライトニングIIシリーズが、米国以外でも運用されているため機数が多いこともリストアを決めた理由の1つと考えています。
F-35AライトニングIIのニコイチと成果
F-35AライトニングIIのニコイチは、2023年末からはじまり、当初の予定である2025年3月より早く、2025年1月に飛行試験に成功しました。
ニコイチに取り組んだ方々は、米国空軍(USAF)や製造メーカーからなるドリーム・チームとよばれています。
ニコイチ作業内容
F-35AライトニングIIのニコイチは、2機のF-35AライトニングIIから、使用可能な部品やシステムを再利用します。
実際には、新規に調達しなければならなかった部品などもありました。
- 機体A:ノーズギア(機首のランディングギア)のない機体(2020年)
- 機体B:エンジン火災で損傷した機体の機首(2014年)
主な作業内容を列挙します。
- 適切な重心位置に、ランディングギアを再設置する。
- 機首の外装
- コクピットやアビオニクスの再構築
- 機体の配線
- ステルス性(低観測性、low-observable properties)の改修(refurbish)に必要な部品の製作・取付やコーティング
ニコイチに必要な工具や設備
F-35AライトニングIIのニコイチは、はじめての試みでもあり、専用の特殊工具、ジグ、設備などを設計・製作することになりました。
さらに、工場での整備だけでなく、前方地域での整備を実現するために、工具・ジグ・設備などに次のような要求もありました。
- コンテナなどに搭載し空輸可能、前方地域での展開・使用できること
- (工場で使用する大型のジグと同じ様に使える)多用途に使用できる汎用性をもつ移動式のジグ
ニコイチによる成果
F-35AライトニングIIのニコイチは、形のない人や技術とコストに関することです。
- ニコイチにより得られた経験と熟練度(人的資源)
- F-35AライトニングIIのニコイチ・プロジェクト費用は、600万ドル以下と推定、F-35AライトニングIIは、8,000万ドル以上(コスト・パフォーマンス)
これは、
- ニコイチというレストア作業により得られた人や技術的な知見
と、
- 損傷した2機の機体を利用して、1機8,000万ドルのF-35AライトニングIIを、600万ドル以下で作れた。
ともいえます。
写真で見るF-35AライトニングIIのニコイチ
ニコイチから飛行試験までのF-35AライトニングIIを写真で説明します。
飛行試験に成功したF-35AライトニングIIは、この後、
- 機能試験飛行(functional check flight)
- 最終認証(final certifications)
- USAFで飛行試験
を得て、部隊配備となります。
ニコイチ前の機体
ニコイチ前のF-35AライトニングIIを写真を使い説明します。
下図は、ニコイチ対象機の機首(パイロット席)部分を吊っている写真です。
- エンジンが損傷した機体から機首部分を取り外す作業の写真です。
- 機首を支えるジグやクレーンで吊るためのジグは、新造されたジグ(new Mobil Maintenance System)できます。機体各部の組み合わされた部分を外し、再度結合するために使用します。
- 何をするにもジグやら工具やら設備やらが必要になりますし、作業する技術者のスキルも必要です。

230810-F-F3495-1002 Restoring an F-35A Lightning II: A collaborative endeavor A damaged nose section is removed from an F-35 airframe using a new Mobil Maintenance System at Hill Air Force Base, Utah, in October 2023. The MMS was created to de-mate and re-mate aircraft sections during a total reconstruction project of a wrecked F-35A Lightning II by the F-35 Joint Program Office. The project aims to restore the aircraft to full operational flying status. (U.S Air Force courtesy photo)
図2 F-35AライトニングII:ニコイチ前(その1)
出典:HILL AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、ニコイチ前の機体前部と後部の写真です。
- 機首が損傷した機体は、パイロット席から後部を使用しているようです。

230811-F-F3495-1003 Restoring an F-35A Lightning II: A collaborative endeavor A new Mobil Maintenance System supports the donated nose section from a salvaged F-35 airframe used as an Aircraft Battle Damage Repair trainer at Hill Air Force Base, Utah, in October 2023. The MMS was created to de-mate and re-mate aircraft sections during a total reconstruction project of a wrecked F-35A Lightning II by the F-35 Joint Program Office. The project aims to restore the aircraft to full operational flying status. (U.S Air Force courtesy photo)
図2 F-35AライトニングII:ニコイチ前(その2)
出典:HILL AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
ニコイチ後の飛行試験
ニコイチ後のF-35Aライトニングを写真を使い説明します。
下図は、ニコイチした機体の写真です。
- パイロット席下部の緑色の部分機体と、パイロット席以降の部分とを結合した様子が分かります。
図3 F-35AライトニングII:ニコイチ後(その1)
出典:HILL AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、ニコイチ後試験飛行する写真です。
地上での試験を終えて、飛行試験となりますが、ニコイチをした関係者も操縦するパイロットも飛行するまでは安心できないのだろうと思います。

飛行試験の初期段階では、主輪を出したままの飛行するようです。
一次情報は確認できていませんのでご了承ください。

250116-F-LS255-1012.JPG Seen here on its functional check flight, Airmen from the 388th Fighter Wing completed a lengthy project to restore a single F-35A Lightning II from two separate, damaged aircraft. The project was an interagency effort between the F-35 Joint Program Office, Ogden Air Logistics Complex, 388th Fighter Wing and Lockheed Martin. (U.S. Air Force photo by Todd Cromar)
図3 F-35AライトニングII:ニコイチ後(その2)
出典:HILL AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、飛行中のニコイチしたF-35AライトニングIIの写真です。
- 主輪のドアが完全には閉じていません。この写真だけなのか、あえてなのかは分かりませんでした。
- レーダー・リフレクターは設置していないようなので、まずは飛行することを確認し、ステルス性等は今後の試験項目だと推測しています。

250116-F-LS255-1014.JPG Airmen from the 388th Fighter Wing completed a lengthy project to restore a single F-35A Lightning II from two separate, damaged aircraft, and begin its return to combat status. The project was an interagency effort between the F-35 Joint Program Office, Ogden Air Logistics Complex, 388th Fighter Wing and Lockheed Martin. Seen here during its functional check flight. (U.S. Air Force photo by Todd Cromar)
図3 F-35AライトニングII:ニコイチ後(その3)
出典:HILL AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
まずは、ニコイチしたF-35AライトニングIIの飛行試験が成功し、ニコイチに携わった方々も一段落できたたのではないかと思います。
レーダー・リフレクターについては、以下の記事をご参照ください。
参考
この記事は、主に以下のWebサイトの情報をまとめています。
英文サイトを和訳していることと、私の理解した内容なので正確な情報は、以下の情報をご参照ください。
- HILL AIR FORCE BASE(米国空軍)の記事「Restoration project returns damaged F-35A to Air Force’s operational fleet」
F-35AライトニングIIのレストアについて、構造的な面で知りたい場合には、プラモデルを利用すれば、ある程度分かるかもしれません。
F-35AライトニングIIのスケールモデルとしてタミヤ製のプラモデル「タミヤ 1/48傑作機シリーズ No.124 ロッキード マーチン F-35AライトニングII 61124」を紹介します。
- 定価9,680円(本体価格8,800円)
まとめ
2025年1月、最新のステルス機F-35AライトニングIIをニコイチした機体が飛行試験に成功しました。
飛行試験に成功したF-35AライトニングIIは、ノーズギア(機首側の主輪)を損傷した機体とエンジン火災により損傷した機体のニコイチです。
ここでは、米国空軍(USAF)のWebサイトの情報から、写真を含めF-35AライトニングIIのニコイチについて、以下の項目で説明しました。
- ニコイチとは
- ニコイチの例
- ニコイチをしない理由
- F-35AライトニングIIのニコイチ
- ニコイチを決めた理由:コスト
- ニコイチを決めた理由:機体があった
- ニコイチを決めた理由:これまでの修理実績
- F-35の機体の部分的な修復
- 回収された機体の一部の整備訓練での利用
- F-22ラプターの大規模レストア
- ニコイチを決めた理由:期待できる成果
- F-35AライトニングIIのニコイチと成果
- ニコイチ作業内容
- ニコイチに必要な工具や設備
- ニコイチによる成果
- 写真で見るF-35AライトニングIIのニコイチ
- ニコイチ前の機体
- ニコイチ後の飛行試験
- 参考