ボルテックス・ジェネレーターとは、旅客機の主翼の上にある突起状のモノです。日本語では、渦発生装置といわれています。
ボルテックス・ジェネレーターを主翼に取り付けることで、空力的な性能向上や燃費改善の効果が得られるため、旅客機や輸送機などでも実際に使われている技術です。
ここでは、米国空軍の輸送機C-17グローブマスターIIIを例に、ボルテックス・ジェネレーターによる効果について説明します。
なお、米国空軍では、ボルテックス・ジェネレーターではなく、マイクロベーン(Microvane)といいますが、ここではボルテックス・ジェネレーターといいます。
ボルテックス・ジェネレーターとは
ボルテックス・ジェネレーターとは、渦発生器のことです。
下図は、旅客機の主翼の写真です。
- 下図の青枠で囲んでいる部分の主翼上に並ぶ小さな突起物が、ボルテックス・ジェネレーターです。
- ボルテックス・ジェネレーターの設置位置は、設置目的(期待する効果)などにより様々です。

ボルテックス・ジェネレーターの例
図1 ボルテックス・ジェネレーターの例
出典:フリー素材ドットコムからの画像(加工しています)
ボルテックス・ジェネレーターの効果
ボルテックス・ジェネレーターは、航空機の性能や燃料消費量削減などの効果を得ることができます。
図1を例にボルテックス・ジェネレーターの効果を説明します。
- 図1の右側が進行方向です。
主翼表面を空気が流れていきますが、高速になったり上昇したりすると主翼後方(図1右側)部分の空気層が主翼表面から離れていき、空気抵抗(抗力)が大きくなり、速度が低下したり速度を維持するためにエンジン推力を上げることで燃料消費量が増えたりします。
ボルテックス・ジェネレーターを設置すると、
- ボルテックス・ジェネレーターにより、主翼表面に小さな渦が発生します。
- この小さな渦の層が、主翼表面を後方に流れることで、高速になったり上昇したりすると主翼後方(図1右側)部分の空気層が主翼表面から離れていくのを遅らせる効果があります。

ボルテックス・ジェネレーターは、主翼表面に小さな渦を発生することで主翼全体の空気抵抗(抗力)を小さくする効果を得られるというイメージです。
C-17グローブマスターIIIのボルテックス・ジェネレーター
ここでは、C-17グローブマスターIIIの燃費改善を狙いとした、ボルテックス・ジェネレーターの試験について説明します。
なお、C-17グローブマスターIIIでは、ボルテックス・ジェネレーターではなく、マイクロベーン(Microvane)といいますが、ここではボルテックス・ジェネレーターといいます。
大型輸送機C-17グローブマスターIII
C-17グローブマスターIIIは、米国陸軍の主力戦車M1A2エイブラムス(約60トン)を1両空輸可能な米国空軍の大型輸送機です。
不整地への着陸や、狭いエリアへの離着陸性能に優れた大型輸送機です。
下図は、C-17グローブマスターIIIの写真です。
- 全長:53 m、全高:16.79 m、全幅:51.75 m
- 最大離陸重量:265,352 kg

A U.S. Air Force C-17 Globemaster III heavy-lift transport aircraft flies over Travis Air Force Base, Calif., Mar. 27, 2017. This aircraft was developed for the USAF in the 1980s to the early 1990s by McDonnell Douglas. The C-17 carries forward the name of two previous piston-engined military cargo aircraft, the Douglas C-74 Globemaster and the Douglas C-124 Globemaster II. The C-17 commonly performs strategic airlift missions, transporting troops and cargo throughout the world; additional roles include tactical airlift, medical evacuation and airdrop duties.(U.S. Air Force photo/ Heide Couch)
図2 C-17グローブマスターIII
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
C-17グローブマスターIIIの詳細は、以下の記事をご参照ください。
C-17グローブマスターIIIのボルテックス・ジェネレーター
C-17グローブマスターIIIのボルテックス・ジェネレーターは、下図の通り、胴体後部に設置されています。
- C-17グローブマスターIIIは、輸送機なので、胴体後部下面は物資等を投下できる貨物ドアとなっています。

250114-F-QY132-1001 Microvane Installation at Stewart Air National Guard Base A C-17 Globemaster III with microvanes successfully installed waits on the flight line at Stewart Air National Guard Base.
図3 C-17グローブマスターIII:ボルテックス・ジェネレーター(その1)
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、C-17グローブマスターIII胴体後部のボルテックス・ジェネレーターの写真です。
- ボルテックス・ジェネレーターは、胴体後部に合計12個設置されています。左右6個づつです。
- ボルテックス・ジェネレーターの大きさは、約102mmx407mmで、薄いブレードの様な形です。
- ボルテックス・ジェネレーターは、3Dプリンタで製作され、接着剤で取り付けられています。
図3 C-17グローブマスターIII:ボルテックス・ジェネレーター(その2)
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善効果
C-17グローブマスターIIIにボルテックス・ジェネレーターを設置することで、空気抵抗(抗力)と燃料消費量が約1%減少させる効果があります。
- 試算ですが、ボルテックス・ジェネレーターを米国空軍の全てのC-17グローブマスターIIIに設置すると、ボルテックス・ジェネレーターへの投資額(開発費等)と約7か月で回収、年間1,400万ドル以上の節約となります。
輸送機は、一定の飛行条件(速度や高度)で定常的な運用となるため、燃料消費量が1%削減するということは、年間の燃料消費量、つまり、燃料費を1%削減する効果があることになります。
大型輸送機ということで、燃料の消費量も大きいため、限られた予算の有効活用につながります。
ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善以外の効果
空気抵抗(抗力)が減少することは、飛行性能にもプラスの効果となります。
ボルテックス・ジェネレーターにより、C-17グローブマスターIIIの機体後部(貨物ドア付近)の空気抵抗(抗力)低減により、大型輸送機としての能力向上にもなっています。
C-17グローブマスターIIIは、大型輸送機であり、運用されている機数も多いことから、ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善や空気抵抗(抗力)改善の効果を容易に幅広く得られることになります。
参考リンク
この記事の参考リンクを以下に示します。
2025年1月現在、ボルテックス・ジェネレーターの評価は最終段階に入っています。
- Cutting-Edge Microvane Technology Ready to Modernize C-17 Fleet
まとめ
ボルテックス・ジェネレーターとは、旅客機の主翼上にある突起状のモノで、渦発生装置といわれています。
ボルテックス・ジェネレーターは、空力的な性能向上や燃費改善の効果が得られる技術です。
ここでは、米国空軍の大型輸送機C-17グローブマスターIIIを例に、ボルテックス・ジェネレーターによる効果について、以下の項目で説明しました。
- ボルテックス・ジェネレーターとは
- ボルテックス・ジェネレーターの効果
- C-17グローブマスターIIIのボルテックス・ジェネレーター
- 大型輸送機C-17グローブマスターIII
- C-17グローブマスターIIIのボルテックス・ジェネレーター
- ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善効果
- ボルテックス・ジェネレーターによる燃費改善以外の効果
- 参考リンク