今の時代の高高度偵察機には、無人機のRQ-4グローバルホーク(Global Hawk)がありますが、有人の高高度偵察機には、SR-71ブラックバードとU-2ドラゴンレディがあります。
ここでは、主に米国空軍のWebサイトの情報からU-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)についてまとめています。
高高度偵察機U-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)とは
U-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)は、単座で単発(エンジン1基)の高高度偵察・監視用の航空機です。
U-2ドラゴンレディの役割は、様々な信号(signals)、画像(imagery)、電子計測データを収集して行う偵察・監視、いわゆる諜報活動(MASINT:Measurement and Signatures intelligence)になります。
下図は、U-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)です。
機体形状も個性的ですが、技術的にも、運用面においてもユニークな特徴を持つ航空機です。
下図は、U-2ドラゴンレディの写真です。
- 21,000m以上の高高度の世界は、もはや宇宙に近いといえます。
U-2 Dragon Lady A U- 2 Dragon Lady approaches an altitude near 70,000 ft. above California, Mar. 23, 2016. The pilot must wear a full-pressure suit similar to NASA astronaut suits. (U.S. Air Force photo/Staff Sgt. Robert M. Trujillo)
図1 U-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
U-2ドラゴンレディの主な特徴
U-2ドラゴンレディは、高高度偵察機です。
- 1956年に初期運用能力を獲得し、その後様々な改修を経て、現在はU-2Sが運用されています。
U-2ドラゴンレディの主な特徴を列挙します。
- 1956年に初期運用能力を獲得し、その後様々な改修を経て、現在はU-2S/TU-2Sが運用されています。TU-2Sは複座の訓練機です。
- 21,000m以上の高高度(宇宙に近い高さ)での偵察・監視を行うため、パイロットは宇宙飛行士が着用する完全な与圧服を着用します。
- 細長い翼の独特な外観でグライダーのような特性を持つ(ゆっくり長く飛ぶ)
- 搭載した様々なセンサーにより収集した以下のデータを保存し地上部隊に送信
- マルチスペクトル(電気・光学)
- 赤外線
- 合成開口レーダー
- なお、光学カメラによる高解像度で広域の撮影画像は、着陸後に現像・分析します。
また、離着陸にも次の様な高度なテクニック(操縦技術)と地上からのサポートが必要とされます。
- 航空機の低高度での操縦特性と自転車型着陸装置により、着陸時には正確なコントロール(繊細な操縦技術)が要求される。
- 機首が長い、テールドラッガー(taildragger)と呼ばれる構造のため、前方視界が制限される。
- U-2の2人目のパイロットは通常、高性能の車両で着陸毎に追跡し、高度や滑走路の誘導のための無線でパイロットを支援する。(着陸時には、別のパイロットによる地上から誘導します。)
この様な特徴から、
U-2ドラゴンレディは、「世界で最も飛行が困難な航空機」ともいわれます。
写真で見るU-2ドラゴンレディ
U-2ドラゴンレディをUSAF(米国空軍)のWebサイトの写真を使い説明します。
機体形状
U-2ドラゴンレディを上から撮影した写真がみつかりませんでした。
下図は、U-2ドラゴンレディの機体上面の写真です。
- 自転車型の主輪(ダブルタイヤになってはいますが、前方と後方の車輪は、機体中央にあります。)
- 主翼がグライダーの様に細く長い形状をしています。
Civilian U-2 Instructor Pilots, Making History and Training the Nation’s Future Fleet of U-2 Pilots A U-2 Dragon Lady piloted by retired Lt. Col. Jonathan Huggins, 1st Reconnaissance Squadron U-2 instructor pilot, flies over Beale Air Force Base, California July 31, 2020. The bicycle-type landing gear and low-altitude handling characteristics of the U-2 require precise control inputs during landing. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Luis A. Ruiz-Vazquez)
図2-1 U-2ドラゴンレディ:上面
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、離陸前の正面からの写真です。
- 正面から見ると自転車型の車輪配置であることがよく分かります。
- 左右の主翼中央付近についている車輪は、pogoと呼ばれる補助輪です。
- ほぼエンジンサイズの胴体、細長い主翼を確認できます。
- 機体上のポッドは、衛星通信用の機材のようです。
U-2 Dragon Lady prepares to take off during WSINT 23-A A U-2 Dragon Lady prepares to take off and participate in the U.S. Air Force Weapons School Integration Phase 23-A cycle on May 30, 2023 at Nellis Air Force Base, Nevada. The U-2, along with other aircraft, participated in the U.S. Air Force WSINT course, demonstrating the strategic advantage of multi-domain, integrated command and control. (U.S. Air Force photo taken by Maj. Robert Neal)
図2-2 U-2ドラゴンレディ:前から
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、横からの写真です。
- 細長い機首、コクピットから後方は、ほぼストレートの筒型の形状です。
- 自転車型の車輪配置で操縦が難しいうえに、後方の車輪は非常に小さく、離着陸時共に機首を上げ過ぎると滑走路と接触してしまうことも操縦の難しい理由の1つです。
Civilian U-2 Instructor Pilots, Making History and Training the Nation’s Future Fleet of U-2 Pilots A U-2 Dragon Lady piloted by retired Lt. Col. Jonathan Huggins, 1st Reconnaissance Squadron U-2 instructor pilot, prepares for landing July 31, 2020 at Beale Air Force Base, California. The bicycle-type landing gear and low-altitude handling characteristics of the U-2 require precise control inputs during landing. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Luis A. Ruiz-Vazquez)
図2-3 U-2ドラゴンレディ:横から
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、機体下方からの写真です。
- 機首の空気取り入れ口を考慮するとコクピットより後方はエンジン直径に近いサイズとなっているようです。
9RW aircraft A U-2 Dragon Lady conducts a training sortie above Beale Air Force Base, Calif., Jan. 21, 2014. The Dragon Lady flies at altitudes more than 70,000 ft. and has a wingspan of 105 ft. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Bobby Cummings/Released)
図2-4 U-2ドラゴンレディ:下から
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、機体後方からの写真です。
- 着陸訓練の写真のようで、機体後方に開いているのはエアブレーキだと思います。
U-2 Dragon Lady takes center stage during Air Force celebrations A U-2 Dragon Lady from Beale Air Force Base, California, prepares to land at Joint Base Andrews, Maryland, Sep. 17, 2015. The aircraft was on display during an air show Sep. 19, 2015. This year marks the 60th anniversary of the U-2, one of the oldest operational aircraft in the Department of Defense. (U.S. Air Force photo by Senior Airman Bobby Cummings)
図2-5 U-2ドラゴンレディ:後方から
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
離陸
下図は、離陸時の写真です。
- 長い機首とキャノピー形状により、パイロットの視界はかなり制限されそうです。
- 地上から離れるまでは不安的な飛行機だと推測しているので、左右の主翼に取り付けるpogo(補助輪)は、どの段階でどの様にして取り外すのか、離陸時の気象条件(特に風)の影響をどの程度受けるのかなどに興味を持ちます。
U-2 Dragon Lady Returns to Beale Skies A U-2 Dragon Lady takes off signifying the return to normal flying operations Sept. 23, 2016, at Air Force Base, California after an incident near the Sutter Buttes Sept. 20, 2016. Beale Air Force Base will continue providing high-altitude intelligence, surveillance, and reconnaissance to combatant commanders. (U.S. Air Force photo/Airman Tristan D. Viglianco)
図3 U-2ドラゴンレディ:離陸(その1)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、前方から離陸を捉えた写真です。
WSINT 23-A A U-2 Dragon Lady assigned to the 9th Reconnaissance Wing, Beale Air Force Base (AFB), California, takes off for a Weapons School Integration mission on May 30, 2023 at Nellis AFB, Nevada. The U.S. Air Force Weapons School teaches graduate-level instructor courses that provide advanced training in weapons and tactics employment to officers and enlisted specialists of the combat and mobility air forces.(U.S. Air Force photo by Senior Airman Wyatt Stabler)
図3 U-2ドラゴンレディ:離陸(その2)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
着陸
下図は、着陸時の写真です。
U-2ドラゴンレディの着陸は、ここまでも簡単ではないと思いますが、これからが大変かつ難しくなります。
1,000th pilot tames U-2 Dragon Lady A U-2 Dragon Lady piloted by Maj. J.J., 1st Reconnaissance Squadron student pilot, prepares to land Aug. 31, 2016, at Beale Air Force Base, California. J.J.’s flight qualified him as the 1,000 pilot to operate the U-2 in the aircrafts 61 years of service. (U.S. Air Force photo by Senior Airman Ramon A. Adelan)
図4 U-2ドラゴンレディ:着陸(その1)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図の白い車は、U-2ドラゴンレディの着陸をサポートするチェイス・カーです。
NASA astronaut visits Beale Col. Phil Stewart, 9th Reconnaissance Wing commander, pursues a U-2 Dragon Lady in a mobile chase car at Beale Air Force Base, Calif., Dec. 6, 2013. Stewart was escorting retired NASA astronaut Robert Gibson who was serving as a guest speaker at the wing holiday party. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Bobby Cummings/Released)
図4 U-2ドラゴンレディ:着陸(その2)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、pogoを取り付けるために体重をかけている様子の写真です。
- U-2ドラゴンレディは、自転車型の車輪配置なので、完全に停止すると片側に傾きます。このため、pogoと呼ばれる補助輪を主翼下に設置します。
- pogoは、差し込み型のようです。
ACE exercise advances 9th Reconnaissance Wing and 55th Wing operations A U.S. Air Force 9th Aircraft Maintenance Squadron Airman and a 9th MXS Airman weigh on the wing of a U-2 Dragon Lady to place a pogo during Dragon Flag EAST, April 5, 2023, at Offutt Air Force Base, Nebraska. 9th MXS Airmen assisted 9th AMXS Airmen in retrieving pogos after launch and placing pogos after recovery to ensure steady taxi on the runway throughout the exercise. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Juliana Londono)
図4 U-2ドラゴンレディ:着陸(その3)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
コクピットとパイロット
下図は、U-2ドラゴンレディのコクピットとパイロットの写真です。
- パイロットスーツは宇宙服(与圧服)
- コクピットは狭く乗り降りも大変そうです。
Releasing the Dragon: 9th AMXS maintainers’ U-2 launch operations A U-2 Dragon Lady pilot prepares for a sortie June 26, 2019, at Beale Air Force Base, California. U-2 maintainers provide support to 9th Reconnaissance Wing operations around the world. (U.S. Air Force photo by Senior Airman Tristan D. Viglianco)
図5 U-2ドラゴンレディ:コクピットとパイロット
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
複座のU-2ドラゴンレディ
下図は、U-2ドラゴンレディの飛行訓練に使われる複座タイプの写真です。
U-2 Dragon Lady
図6 U-2ドラゴンレディ:複座の練習機
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
世界一操縦が難しいといわれるU-2ドラゴンレディの訓練機、珍しい塗装前の機体で説明しています。
NASAのER-2
下図は、NASAのER-2です。
- NASAの雷に関する研究に使われているようです。
- SR-71ブラックバードもそうでしたが、高高度の環境は、NASAにとっても有益な証だと思います。
Back in a flash A NASA ER-2 takes off from MacDill Air Force Base, Fla., to conduct terrestrial gamma-ray flash, or TGF, research in the Gulf of Mexico July 13, 2023. The Airborne Lightning Observatory for TGFs campaign is a collaboration between NASA and the University of Bergen, Norway, to study the advanced science of high-energy radiation emissions, also known as dark lightning, from thunderstorms. (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Zachary Foster)
図7 NASAのER-2
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
U-2ドラゴンレディの歴史
U-2ドラゴンレディの歴史について説明します。
1955年8月:U-2A初飛行
U-2Aが、スカンク・ワークス(世界初のステルス機F-117ナイトホークを開発した会社です。)によって完全な機密のもとに製造され初飛行
1950年代後半から運用されています。
U-2 Dragon Lady(ドラゴンレディ)の主な改修について簡単に紹介します。
1967年:U-2R初飛行
U-2Rは、オリジナルの機体より40%大型化し性能も向上しました。
1981年:TR-1A初飛行
TR-1Aは、U-2Rと構造的に同じものです。
1989年:最後の機体を米国空軍に引き渡し
U-2とTR-1の最後の機体が引き渡し
1992年:U-2Rになる
すべてのTR-1とU-2がU-2Rとなりました。
1994年以降:近代化改修
1994年以降、U-2の機体とセンサーの近代化(アップグレード)が進められました。
アップグレードにより、エンジンがGE製F118-101エンジンに換装され、すべての米国空軍のU-2は、U-2Sとなりました。
なお、U-2の飛行訓練は、二人乗りのTU-2Sを使って行われています。
U-2ドラゴンレディの諸元
米国空軍のWebサイトの情報から主要諸元を下表に示します。
参考リンク
この記事は、主に以下のWebサイトの情報をまとめています。
英文サイトを和訳していることと、私の理解した内容なので正確な情報は、以下の情報をご参照ください。
- USAF(米国空軍)のU-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)の紹介ページ
まとめ
高高度偵察機には、無人機のRQ-4グローバルホーク(Global Hawk)がありますが、有人の高高度偵察機には、SR-71ブラックバードとU-2ドラゴンレディがあります。
ここでは、主に米国空軍のWebサイトの情報からU-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)について以下の項目で説明しましました。
- 高高度偵察機U-2ドラゴンレディ(Dragon Lady)とは
- 写真で見るU-2ドラゴンレディ
- 機体形状
- 離陸
- 着陸
- コクピットとパイロット
- 複座のU-2ドラゴンレディ
- NASAのER-2
- U-2ドラゴンレディの歴史
- 1955年8月:U-2A初飛行
- 1967年:U-2R初飛行
- 1981年:TR-1A初飛行
- 1989年:最後の機体を米国空軍に引き渡し
- 1992年:U-2Rになる
- 1994年以降:近代化改修
- U-2ドラゴンレディの諸元
- 参考リンク