SR-71ブラックバード(Blackbird)は、すでに退役していますが米国空軍の偵察機です。
世界最速のマッハ3.2、かつ、最高高度25,000mを越える高高度を飛行できたため、NASAの研究などの試験環境としても使われたユニークな機体でもあります。
個人的な思い出のある機体で、1988年頃だと思いますが、沖縄でSR-71がゆっくりと旋回しながら降りていくのを実際に見たことがあります。真っ黒な機体でしかも遠目にみても随分大きな機体だと思っていました。
ここでは、SR-71ブラックバードについて、米国空軍とNASAのWebサイトの情報を主に写真で説明します。
SR-71ブラックバード(Blackbird)とは
SR-71ブラックバード(Blackbird)は、今でも世界最速のマッハ3.2、最高高度は25,000m超の飛行性能を持った米国空軍の偵察機です。
また、SR-71ブラックバードは、25,000mの高度やマッハ3を超える特殊な環境での飛行が可能なため、NASAの研究開発のためにも使われていました。
下図は、SR-71ブラックバードの写真です。
独特な形状とかなり大きな機体です。
- SR-71ブラックバードの全長は約33m、高高度偵察機U-2ドラゴンレディが約20m、F-15Eストライクイーグルが約20mです。
図1 SR-71ブラックバード(Blackbird)
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
世界最速のSR-71ブラックバード
SR-71ブラックバードは、世界最速、世界最高高度の飛行性能を誇る航空機です。
- 最高速度:マッハ3.2(3,916 km/h)
- 最大巡航高度:25,908 m(25.9 km)
世界最速と世界最高高度を達成するために、スパイクコーンを備えた巨大な2基のエンジンと独特な形状の機体となっています。
SR-71ブラックバードの主な特徴
SR-71ブラックバードは、極限の環境(マッハ3超の速度と25,000mの高度)において、偵察機として運用されていました。
独特な機体形状と巨大な2基のエンジンだけでなく、SR-71はあらゆる面で従来の概念を超えるものでした。
いくつか列挙します。
- 独特な形状の機首と、全体的にはデルタ翼のような機体形状
- 燃料はSR-71専用燃料
- エンジンは、先端部分のスパイクコーンが、衝撃波対策のため前後方向に移動します。
SR-71ブラックバードのエンジン
SR-71ブラックバードが、マッハ3で飛行すると、全推力の少なくとも20%はエンジンそのものを飛ばすために使われてしまいます。
SR-71ブラックバードのP&W製J-58ターボジェットエンジンの特徴を列挙します。
- 高速巡航中の全推力のバランスは、エンジンインレットのユニークな設計と各エンジンナセルの前部にある可動式の円錐状のスパイクコーンによります。
- SR-71の速度によりスパイクコーンの位置が変わり、インレットに入った空気はエンジンをバイパスして、直接アフターバーナーやエジェクタノズルに送られ、ラムジェットの役割を果たします。
- スパイクコーンの位置と共に、エンジン内の空気や燃料の流れも変わる設計となっているようです。
NASAの高速・高高度での研究開のテストベッド
SR-71ブラックバードは、高速での飛行を続けることで発生する熱に耐えるため、チタンや特殊な合金で作られています。
どの程度高温かというと、マッハ3で1時間巡航すると、ヒートシンク温度が315度を超えます。
このため、この高熱を利用した実験のためのユニークな研究プラットフォームとして使われました。
1990年代、NASAがドライデン(現アームストロング)で高速・高高度航空研究のためSR-71ブラックバードが使用されました。
米国空軍からNASAに貸与されたSR-71AとSR-71B(訓練用)が含まれていました。
写真で見るSR-71ブラックバード
SR-71ブラックバード(Blackbird)を米国空軍とNASAのWebサイトの写真を使い説明します。
機体形状
下図は、機体上方からの写真です。
- NASAで運用しているSR-71ブラックバードです。
- 主翼はデルタ翼の様な形状となっています。
- 巨大な2基のジェットエンジンの先端部分はスパイクコーンと呼ばれ、衝撃波対策のために前後方向に移動します。
- コクピットは複座で前後に配置され、後席が高い位置にあります。
- コクピットの後ろの四角の枠の部分は空中給油口です。
図2-1 SR-71ブラックバード:上方から
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
下図は、前方からの写真です。
- 機体に対し2基のジェットエンジンの巨大さが分かります。
- 薄い主翼、主翼両端の水平尾翼、及び、内側に傾いた垂直尾翼を確認できます。
図2-2 SR-71ブラックバード:前から
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
下図は横方向からの写真です。
- コクピットの配置は前後方向で、後席が高い位置にあることが分かります。
図2-3 SR-71ブラックバード:横から
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像(加工しています)
下図は、機体下方からの写真です。
- 長い機首と巨大なエンジンが目立ちます。
図2-4 SR-71ブラックバード:下方から
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
下図は、機体後方からの写真です。
- NASAのLASRE搭載機です。
- SR-71ブラックバードの操舵系(空力制御)は、垂直尾翼、主翼両端の外翼、2基のエンジン排気口の間にある補助翼で構成されます。
図2-5 SR-71ブラックバード:後方から
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
離陸
下図は、離陸するSR-71ブラックバードの写真です。
- アフターバーナーを使い加速していきます。
図3 SR-71ブラックバード:離陸
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
着陸
下図は、着陸するSR-71ブラックバードの写真です。
- ドラッグシュートを使っての着陸です。
- 高速で飛行するSR-71ブラックバードの機体は高温になるため、高高度から地上に着陸するまでの間に、機体温度を下げるためにゆっくりと降りてくるようです。
図4 SR-71ブラックバード:着陸
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
空中給油
下図は、KC-135ストラトタンカーから空中給油を受けるSR-71ブラックバードです。
- SR-71ブラックバードの燃料は、専用燃料です。
図5 SR-71ブラックバード:空中給油
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像(加工しています)
コクピット
下図は、コクピットの写真です。
- NASAのSR-71ブラックバードです。
- SR-71ブラックバードは大型の機体ですが、コクピットは非常に狭そうです。
- パイロットスーツは、U-2ドラゴンレディも宇宙服(与圧服)です。
図6 SR-71ブラックバード:コクピット
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
BEALE AFBにて
下図は古い写真ですが、1966年から1990年の間本拠地としていたBEALE AFBでSR-71ブラックバードを展示した時の写真です。
- 格納庫前の2機の写真から、SR-71ブラックバードの独特な機種形状や2基のエンジンの空気取入口にある円錐状のスパイクコーンを確認できます。
- 格納庫に複数のSR-71ブラックバードを確認できます。
図7-1 SR-71ブラックバード:BEALE AFBでの展示
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
もう1枚、古い写真です。
SR-71ブラックバード、右側がB-52ストラトフォートレス、hダリ側がKC-135ストラトタンカーです。
- SR-71ブラックバードは、空中給油機や戦略爆撃機に近い大きさであることが分かります。
図7-2 SR-71ブラックバード:KC-135、B-52と
出典:BEALE AFB(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
NASAでの運用(LASRE)
SR-71ブラックバードは、高高度かつ超音速で飛行できたため、極限の環境条件を得ることが可能であり、様々な分野の研究や実験を行うための優れたプラットフォームとして使われました。
- 例えば、航空力学、推進力、構造物、熱保護材料、高速・高温計測、大気圏の研究、ソニックブームなど
NASAの実験用ポッドLASRE
下図は、NASAの実験用ポッドLASRE(Linear Aerospike SR Experiment)を搭載したSR-71ブラックバードの写真です。
- LASREポッドは、空飛ぶ風洞のようなイメージで、実際の飛行における空力データ収集に使われました。
図8 SR-71ブラックバード:LASRE(その1)
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
LASREについて簡単に紹介します。
- LASRE(Linear Aerospike SR Experiment)
- 下図の白い部分は、X-33のハーフサイズのリフティング・ボディ・モデルとリニア・エアロスパイク・ロケットエンジン
- 下図の黒い部分(カヌー)には、推進剤と計測機器が搭載され、実験の架台となっている、
- 下図白い部分の黒い板は偏光板で、白い部分の実験から下側の黒く長いカヌー状の部分の影響を分離する。
- LASREポッド全体の長さは12.5m、重量は6,486kg
図8 SR-71ブラックバード:LASRE(その2)
出典:NASA(米国)のWebサイトからの画像
SR-71 Big Tail
下図は、ちょっと変わったSR-71ブラックバード、SR-71A 959 Big Tailです。
- 試験装置を搭載する場所が限られるため、Big Tailの名前通り、機体後部を延長したSR-71ブラックバードで1機のみ作られました。
図9 SR-71A 959 Big Tail
出典:Wright-Patterson AFB(米国空軍)のWebサイトからの画像
SR-71ブラックバードの歴史
SR-71ブラックバードの歴史について説明します。
The National Museum of the U.S. Air ForceのWebサイトの情報を参考にしています。
SR-71の前身
- 1950年代後半、SR-71ブラックバードは、A-12やYF-12Aをベースに開発された長距離戦略偵察機です。
- スカンク・ワークス(Skunk works)により設計されました。
1964年の初飛行から運用終了
1964年12月、SR-71ブラックバード初飛行
1966年1月、SR-71ブラックバード初号機が米国空軍に納入
1990年1月、SR-71ブラックバード退役
その後、退役、復活配備、NASAでの試験機としての運用などを経て、1999年に運用を終えています。
SR-71ブラックバードの諸元
SR-71ブラックバードの主な諸元をThe National Museum of the U.S. Air ForceのWebサイトの情報を参考に紹介します。
全長 | 32.73 m |
---|---|
全高 | 5.63 m |
全幅 | 16.94 m |
エンジン |
|
最大離陸重量 | 52,253 kg(燃料36,414 kgを含む) |
速度 | マッハ3.2(3,916 km/h) |
最大巡航高度 | 25,908 m |
運用人員 | 2名 |
参考リンク
この記事は、主に以下のWebサイトの情報をまとめています。
英文サイトを和訳していることと、私の理解した内容なので正確な情報は、以下の情報をご参照ください。
- The National Museum of the U.S. Air Force
- NASA(以下のページの[Historical]にSR-71のPDFのリンクがあります)
まとめ
SR-71ブラックバード(Blackbird)は、すでに退役していますが米国空軍の偵察機です。
世界最速のマッハ3.2かつ25,000mを超える高高度を飛行できたため、NASAの研究などの試験環境としても使われたユニークな機体でもあります。
1988年頃だと思いますが、沖縄でSR-71がゆっくりと旋回しながら降りていくのを実際に見たことがあります。真っ黒な機体でしかも遠目にみても随分大きな機体だと思っていました。
ここでは、SR-71ブラックバードについて、米国空軍とNASAのWebサイトの情報を主に写真を使い以下の項目で説明しました。
- SR-71ブラックバード(Blackbird)とは
- 世界最速のSR-71ブラックバード
- SR-71ブラックバードの主な特徴
- SR-71ブラックバードのエンジン
- NASAの高速・高高度での研究開のテストベッド
- 写真で見るSR-71ブラックバード
- 機体形状
- 離陸
- 着陸
- 空中給油
- コクピット
- BEALE AFBにて
- NASAでの運用(LASRE)
- NASAの実験用ポッドLASRE
- SR-71 Big Tail
- SR-71ブラックバードの歴史
- SR-71の前身
- 1964年の初飛行から運用終了
- SR-71ブラックバードの諸元
- 参考リンク