AV-8BハリアーIIの垂直離着陸(VTOL)と機体の姿勢制御の仕組み

AV-8BハリアーII 航空機の技術
出典:US NAVY(米国海軍)のWebサイトからの画像(加工しています)

AV-8BハリアーIIは、米国海兵隊の近接航空支援を担う垂直離着陸(VTOL)機です。

2024年現在、海兵隊ではAV-8BハリアーIIからF-35BライトニングIIの配備が進められています。

ここでは、AV-8BハリアーIIの垂直離着陸(VTOL)について、どの様に姿勢を制御しているか説明します。

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AV-8BハリアーIIの姿勢制御について

AV-8BハリアーIIは、垂直離着陸(VTOL)やホバリングが可能です。

ホバリング(空中に浮いている状態)で機体の姿勢を安定させるには、

  • 機体を持ち上げる力
  • 機体のバランスを保つ(機体が水平になるように維持する)力

をうまくコントロールする(バランスをとる)ことが必要です。

ホバリング(空中に静止する状態)は、機体を持ち上げると共に、下図に示すロール、ピッチ、ヨーの3つの回転のバランスをとり、機体を空中で静止させることです。

ホバリングする機体の回転軸

機体の3つの回転軸を下図に示します。

  • ロールは、機体の左右方向のバランスにより発生し、機体の左右の傾きです。
  • ピッチは、機体の上下方向のバランスにより発生し、機首を持ち上げたり下げる機体の前後方向の傾きです。
  • ヨーは、機体の平面内のバランスにより発生し、機首が左右に動く平面内の傾きです。
航空機の回転軸のイメージ

航空機の回転軸のイメージ

図1-1 航空機の回転軸のイメージ

AV-8BハリアーIIのホバリング

AV-8BハリアーIIの垂直離着陸やホバリングは、ジェット噴流により制御されています。

下図は、AV-8BハリアーIIのジェット噴流の吹き出し口(ノズル)配置のイメージ図です。

  • RCV:REACTION CONTROL VALVE
AV-8BハリアーIIのノズル配置

190826-M-EC058-1385 RED SEA (Aug. 26, 2019) An AV-8B Harrier attached to Marine Medium Tiltrotor Squadron 163 (Reinforced), 11th Marine Expeditionary Unit (MEU), prepares to land aboard the amphibious assault ship USS Boxer (LHD 4). The Boxer Amphibious Ready Group and 11th MEU are deployed to the U.S. 5th Fleet area of operations in support of naval operations to ensure maritime stability and security in the Central Region, connecting the Mediterranean and the Pacific through the western Indian Ocean and three strategic choke points. (U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Dalton S. Swanbeck/Released)

図1-2 AV-8BハリアーIIのノズル配置

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

上図でホバリングの状態は、次のようになると私は考えています。

  • 前方エンジンノズルと後方エンジンノズルで機体を持ち上げます。
  • ロールは、主翼両端の右ロールRCVと左ロールRCVで制御します。
  • ピッチは、前方ピッチRCVと後方ピッチRCVで制御します。
  • ヨーは、後方ヨーRCVで制御します。(後方ヨーの矢印が上図左方向にしかありませんが、反対側にもあります。うまく図示できなかったので省略しました。)
はかせ
はかせ

AV-8Bの機体制御については、NASAでAV-8Bを改修して試作機YAV-8Bを作り開発されています。

なお、前方エンジンノズル2個と後方エンジンノズル2個は、4個のノズルをまとめて垂直方向から水平方向に排気方向を変更することで、ホバリングから通常のジェット機の様な水平飛行も可能になっています。

短距離離着陸時には、ノズルを水平から垂直の間の角度にしたり、スピードブレーキを利用してバックするような後方への移動もできるようです。

写真で見るAV-8BハリアーIIの機体制御

AV-8BハリアーIIの機体制御(姿勢制御)について、写真を使い説明します。

実際の機体制御(姿勢制御)は、図1-2に示した様々なRCVからのジェット噴流のバランスをとっていると考えられます。

ここでは、AV-8BハリアーIIのホバリングは、

  • 4つの排気ノズルで機体重量を支える。
  • 各RCV(REACTION CONTROL VALVE)により、高圧ジェットを吹き出して姿勢を制御している。

と考え、

  • 上昇・下降
  • ローリング(ロール軸の回転)
  • ピッチング(ピッチ軸の回転)
  • ヨーイング(ヨー軸の回転)

に分けて説明します。

垂直離陸

AV-8BハリアーIIは、4つのエンジン排気ノズルをもち、排気ノズルの向きを変えることで、垂直離陸、短距離離陸、通常の離陸・飛行ができます。

下図は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Wasp(LHD 1)に垂直着陸するの写真です。

  • 前方・後方エンジンノズルは、左側にもあります。
  • 前側のエンジン排気ノズルからは圧縮空気、後ろ側は通常のジェット機と同様の高温の排気が出てきます。
AV-8BハリアーII:垂直離陸時のノズル配置

161009-N-JW440-025 MEDITERRANEAN SEA (Oct 9, 2016) An AV-8B Harrier, from the 22nd Marine Expeditionary Unit (MEU), prepares to land aboard the amphibious assault ship USS Wasp (LHD 1) Oct. 9, 2016. The 22nd MEU embarked on Wasp, is conducting precision air strikes in support of the Libyan Government of National Accord-aligned forces against Daesh targets in Sirte, Libya as part of Operation Odyssey Lightning. (U.S. Navy photo by Petty Officer 3rd Class Rawad Madanat/Released)

図2 AV-8BハリアーII:垂直離陸時のノズル配置

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

ホバリングから前進

下図の写真は、海兵隊の強襲揚陸艦からAV-8BハリアーIIが、短距離離陸するときの写真です。

  • 下図上側は、発進時で前方の排気ノズルが機体後方に向いています。機体を静止状態から短距離で加速させることができます。空中での通常飛行時もこの位置です。
  • 下図下側は、前方の排気ノズルが斜め下方向に向いています。排気ノズルを斜め後方に向けることで機体を浮かせる効果を得られます。
AV-8BハリアーII:短距離離陸時のノズル配置

190310-N-YH603-1116 190310-N-YH603-1116 U.S. 5TH FLEET AREA OF OPERATIONS (March 10, 2019) Aviation Boatswain’s Mate (Handling) 2nd Class Reymond Rallos gives the signal to launch an AV-8B Harrier on the flight deck of the Wasp-class amphibious assault ship USS Kearsarge (LHD 3), March 10, 2019. Kearsarge is the flagship for the Kearsarge Amphibious Ready Group and, with the embarked 22nd Marine Expeditionary Unit, is deployed to the U.S. 5th Fleet area of operations in support of naval operations to ensure maritime stability and security in the Central Region, connecting the Mediterranean and the Pacific through the western Indian Ocean and three strategic choke points. (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Casey Moore/Released) 220423-N-MZ836-1313 ATLANTIC OCEAN (April 23, 2022) An AV-8B Harrier, attached to the 22nd Marine Expeditionary Unit, takes-off of the flight deck of the Wasp-class amphibious assault ship USS Kearsarge (LHD 3) during flight operations April 23, 2022. Kearsarge, flagship of the Kearsarge ARG/MEU team, is on a scheduled deployment under the command and control of Task Force 61/2 while operating in U.S. Sixth Fleet in support of U.S., Allied and partner interests in Europe and Africa. (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jesse Schwab)

図3 AV-8BハリアーII:短距離離陸時のノズル配置

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

ローリング(ロール軸の回転)制御

下図の写真は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Boxer(LHD 4)から離陸するときの写真です。

  • 機体の左右の傾きを主翼端のロール用RCVを使って制御します。
  • 機体の左右端部にあるので、小さい力でロール軸の制御が可能です。
  • 胴体中央部に機首とメインの車輪(ランディング・ギア)が配置されています。機体重量は主に胴体中央部の機首とメインの車輪で支え、左右の傾きを主翼中央のアウトリガーの車輪で支えています。
はかせ
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よさそうな写真がみつかりませんでしたが、上側のロールバルブ開口部は小さいので、補助的な役割を果たしていると推測しています。

AV-8BハリアーII:ローリング用バルブ

191119-N-PQ586-1199 PACIFIC OCEAN (Nov. 19, 2019) An AV-8B Harrier II attached to Marine Medium Tiltrotor Squadron (VMM) 163 (Reinforced) prepares to take off from the flight deck of the amphibious assault ship USS Boxer (LHD 4) during a tiger cruise air show. Sailors and Marines of the Boxer Amphibious Ready Group (ARG) and 11th Marine Expeditionary Unit (MEU) are embarked aboard Boxer on a scheduled deployment. (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jessica Ann Hattell/Released)

図4 AV-8BハリアーII:ローリング用バルブ

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

ピッチング(ピッチ軸の回転)制御

下図の写真は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Bonhomme Richard(LHD 6)に着艦する時の写真です。

  • 機体前後の傾きを機首と尾部のピッチ用RCVを使って制御します。
  • 機体の前後方向の端部にあるので、小さい力でピッチング軸の制御が可能です。
  • 機体には、基本的には重力が加わっているため、ピッチ用RCV下方向のみだと考えています。
AV-8BハリアーII:ピッチング用バルブ

170205-N-XT039-023 PHILIPPINE SEA (Feb. 5, 2017) An AV-8B Harrier II assigned to the “Tomcats” of Marine Attack Squadron (VMA) 311, lands aboard amphibious assault ship USS Bonhomme Richard (LHD 6). The ship is conducting unit-level training to ensure warfighting readiness in preparation for a routine patrol in support of security and stability in the Indo-Asia Pacific region. (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Apprentice Jesse Marquez Magallanes/Released)

図5-1 AV-8BハリアーII:ピッチング用バルブ

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

下図は、強襲揚陸艦USS Bonhomme Richard(LHD 6)から垂直離陸している写真です。

  • 機体下方から見たAV-8BハリアーIIのピッチ用RCVの位置を示しています。
  • スピードブレーキを開く(下げる)と共に、両翼のフラップを大きく下げていることが分かります。
AV-8BハリアーII:ピッチング用バルブ

170614-M-GE751-004 PACIFIC OCEAN (June 14, 2017) An AV-8B Harrier short take off-vertical landing aircraft prepares to land aboard the amphibious assault ship USS Bonhomme Richard (LHD 6) in the Pacific Ocean. The ship and its expeditionary strike group are operating in the Indo-Asia-Pacific region to enhance partnerships and be a ready-response for any type of contingency. (U.S. Marine Corps photo by Cpl. Amaia Unanue/Released)

図5-2 AV-8BハリアーII:ピッチング用バルブ

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

ヨーイング(ヨー軸の回転)制御

下図の写真は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Essex(LHD 2)に着艦する時の写真です。

  • 機首の向きを変える(機体を水平面で回転させる)ために、尾部のヨー用RCVを使って制御します。
  • ヨー軸用のRCVは、尾部のみです。
はかせ
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主翼の車輪(アウトリガー・ランディング・ギア)は、主翼後方に持ち上げて下図主翼中央付近のU字型の部分に固定されます。主翼内に格納されるタイプではないことがわかります。

AV-8BハリアーII:ヨーイング用バルブ

220120-N-ZW128-1080 PHILIPPINE SEA (Jan. 20, 2022) An AV-8B Harrier, assigned to Marine Attack Squadron (VMA) 214, 11th Marine Expeditionary Unit (MEU), launches from the flight deck of the Wasp-class amphibious assault ship USS Essex (LHD 2), Jan. 20, 2022. Operating as part of U.S. Pacific Fleet, Essex Amphibious Ready Group (ESX ARG) is conducting training to preserve and protect a free and open Indo-Pacific region. (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Wesley Richardson)

図6-1 AV-8BハリアーII:ヨーイング用バルブ

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

下図は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Wasp(LHD 1)に着艦する時の写真です。

  • 後方ヨーRCVの位置を示しています。
AV-8BハリアーII:ヨーイング用バルブ

161009-N-JW440-025 MEDITERRANEAN SEA (Oct 9, 2016) An AV-8B Harrier, from the 22nd Marine Expeditionary Unit (MEU), prepares to land aboard the amphibious assault ship USS Wasp (LHD 1) Oct. 9, 2016. The 22nd MEU embarked on Wasp, is conducting precision air strikes in support of the Libyan Government of National Accord-aligned forces against Daesh targets in Sirte, Libya as part of Operation Odyssey Lightning. (U.S. Navy photo by Petty Officer 3rd Class Rawad Madanat/Released)

図6-2 AV-8BハリアーII:ヨーイング用バルブ

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

LIDSとスピードブレーキ

下図は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Bonhomme Richard(LHD 6)に着艦する時の写真です。

AV-8BハリアーIIのLIDS(Lift Improvement Devices)は、垂直離着陸時に地面(甲板)で跳ね返されてきたエンジン排気ノズルの圧縮空気を受け止めることで、機体を浮かせる揚力を補う効果があります。

  • 着陸時にLIDSが無い場合には、機体は、排気ノズルによる揚力のみで支えることになります。また、地面(甲板)で跳ね返された排気ノズルからの圧縮空気で機体が不安定になります。
  • LIDSを装着して地面から跳ね返された排気を受け止めることで、機体を浮かせる力を補うことができます。
AV-8BハリアーII:垂直離陸時のノズル配置

170614-M-GE751-004 PACIFIC OCEAN (June 14, 2017) An AV-8B Harrier short take off-vertical landing aircraft prepares to land aboard the amphibious assault ship USS Bonhomme Richard (LHD 6) in the Pacific Ocean. The ship and its expeditionary strike group are operating in the Indo-Asia-Pacific region to enhance partnerships and be a ready-response for any type of contingency. (U.S. Marine Corps photo by Cpl. Amaia Unanue/Released)

図7-1 AV-8BハリアーII:LIDS

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

下図は、AV-8BハリアーIIが強襲揚陸艦USS Wasp(LHD 1)に着艦する時の写真です。

  • AV-8BハリアーIIのスピードブレーキは、垂直着陸時にも使用されています。
はかせ
はかせ

飛行中にエアブレーキを使うと、急ブレーキや機首上げの様なトリッキーな操縦ができそうですが、推奨はされていないと思います。

AV-8BハリアーII:LIDS

161009-N-JW440-025 MEDITERRANEAN SEA (Oct 9, 2016) An AV-8B Harrier, from the 22nd Marine Expeditionary Unit (MEU), prepares to land aboard the amphibious assault ship USS Wasp (LHD 1) Oct. 9, 2016. The 22nd MEU embarked on Wasp, is conducting precision air strikes in support of the Libyan Government of National Accord-aligned forces against Daesh targets in Sirte, Libya as part of Operation Odyssey Lightning. (U.S. Navy photo by Petty Officer 3rd Class Rawad Madanat/Released)

図7-1 AV-8BハリアーII:LIDS

引用先:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > Resources > Photo Gallery>から(加工しています。)

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まとめ

AV-8BハリアーIIは、米国海兵隊の近接航空支援を担う垂直離着陸(VTOL)機で、2024年現在、F-35BライトニングIIの配備が進められています。

ここでは、垂直離着陸(VTOL)機AV-8BハリアーIIが、どの様に姿勢を制御しているかについて、以下の項目で説明しました。

  • AV-8BハリアーIIの姿勢制御について
    • ホバリングする機体の回転軸
    • AV-8BハリアーIIのホバリング
  • 写真で見るAV-8BハリアーIIの機体制御
    • 垂直離陸
    • ホバリングから前進
    • ローリング(ロール軸の回転)制御
    • ピッチング(ピッチ軸の回転)制御
    • ヨーイング(ヨー軸の回転)制御
    • LIDSとスピードブレーキ
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